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腰痛の治療として腰椎手術は集中的リハビリテーションより有効か?

NCP Rheumatology Medicine 2005年11月号
Vol.2 No.11

腰痛の治療として腰椎手術は集中的リハビリテーションより有効か?

原論文
Fairbank J et al. (2005) Randomised controlled trial to compare surgical stabilisation of the lumbar spine with an intensive rehabilitation programme for patients with chronic low back pain: the MRC spine stabilisation trial. BMJ 330: 1233-1238

PRACTICE POINT(診断のポイント)
腰痛の管理において、腰椎固定術は集中リハビリテーションより有効ではない

SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)
腰痛に対する治療戦略として何が最善であるかは不明である。多くの治療手技は非侵襲的ではあるが、最近は腰椎固定術が管理方法として広く行われている。腰痛に対する侵襲的治療の有効性を立証するには、さらなる研究が必要である。

OBJECTIVE(目的)
慢性腰痛患者の治療戦略として、腰椎固定術と集中的認知行動リハビリテーションの有効性を比較すること。

DESIGN & INTERVENTION(デザインと介入)
この多施設共同無作為化対照試験は、脊椎固定術が適当であると考えられる、18~55歳の慢性腰痛患者(持続期間1年以上)を対象とした。以前に脊椎固定術を受けたことのある患者は除外した。腰椎固定術に割り付けられた患者の手術法は、指定外科医の裁量に任された。非手術群に割り付けられた患者は、教育と運動の両方をによる集中リハビリテーションプログラムに参加した。運動は理学療法士の助言により提案され、個々の患者の必要に応じて調整された。主要筋群のストレッチと強化、脊椎の柔軟性と強度の向上、有酸素運動による心血管系の持久力の向上に運動の重点をおいた。この群では臨床心理士への相談が可能であった。解析はintention to treatによって実施し、追跡調査は両群とも2年間行った。

OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要評価項目は、腰痛専用の質問票により得られたOswestry腰痛障害指標スコアの好ましい変化、および試験開始時と2年間の追跡調査終了時に測定した標準的な歩行テストとした。副次的評価項目は、Short Form 36(SF-36)の一般的健康質問票スコアの好ましい変化、心理学的評価、観察された合併症などとした。

RESULTS(結果)
患者合計349例がこの試験に参加した。腰痛患者を、手術群(n=176)または集中リハビリテーション群(n=173)に無作為に割り付けた。2年間の追跡調査後、合計284例(81%)から完全なデータを得た。追跡調査データの解析によると、Oswestry障害指標スコアは手術群では46.5(SD 14.6)から34.0(SD 21.1)へ、リハビリテーション群では44.8(SD 14.8)から36.1(SD 20.6)へ変化し、手術群のほうが大幅な改善を示した。群間差の推定平均値は-4.1であった(95%CI -8.1~-0.1、P=0.045)。不足した追跡調査データを補完すると、群間差の平均値は-4.5に増加した(-8.2~-0.8、P=0.02)。しかし手術にはリスクがあり、費用も余計にかかることを考慮すると、臨床的にはOswestryスコアの改善はごくわずかであると考えられた。手術群の19例で術中の有害事象が観察された。リハビリテーション群の患者では合併症はみられなかった。

CONCLUSION(結論)
腰痛患者の症状緩和に関して、腰椎固定術が集中的リハビリテーションより有効であるという明確なエビデンスはない。

KEYWORDS(キーワード)
認知行動療法、腰痛、腰椎固定術

COMMENTARY(解説)
Charles Pither

根拠に基づいた手術手技を行うことは、多くの理由から困難であった。これらの理由のうちで大きいのは、有意義な試験をデザインし、実施するという根本的な問題、また「通常の治療」に与えられる地位などである。

腰椎症の腰椎固定術に関する最近のCochraneレビューでは、31件の腰椎固定術試験が認されたが、伝統的な非外科的治療法と固定術とを比較した試験は2件しかない。この分野でもっともよく引用される試験は、スウェーデンのLumbar Spine Studyである。この試験は理学療法と手術とを比較し、手術により治療効果が改善されることを示した。しかし、Brox studyの結果は異なっている。この試験の検出力はより小さく、追跡調査期間は短かったが、認知行動療法(CBT)に基づく運動プログラムと比較して、腰椎固定術の利点を認めることはできなかった。

方法論的の欠陥は否定できないが、Fairbankらの研究は歓迎すべき新たな文献である。これは多施設共同無作為化試験であり、対照治療はCBTの要素を含む積極的なリハビリテーションプログラムであった。この結果では、手術がリハビリテーション(機能回復)プログラム(FRP)より優れた利益をもつことは示されなかった。

これらの所見から2つの論点が生じる。第1は、Fairbankらが対象に含めたのは、脊椎外科専門医により脊椎手術がふさわしいと考えられ、また進んで無作為割り付けを受け入れた患者であったことである。この試験では、同様の症状をもちながら手術を望まなかった患者は対象とならなかった。第2に、この試験の外科医はすべて長年脊椎手術を行ってきたが、大多数のリハビリテーション施設は、ゼロからFRPを開発しなければならなかった。この治療の正確な内容と強度は施設によってかなり異なっていたが、それでも転帰は同等であった。さらに付随研究によると、FRPでは、治療を受けた患者1人につき3,400英ポンド(約6,000米ドル)の経費が節約された。

Cochraneレビューではさらなる研究が求められているが、多くの医療制度のもとでは、高品質、大規模で、適切に管理された外科手術の試験を実施することはきわめて困難である。たとえば英国では、そのようなデータが利用できるようになることは今後長期にわたってまずないであろう。臨床医にとっては、不完全なデータから推測する以外に選択肢はない。

エビデンスは、慢性腰痛に対して腰椎固定術が有効である可能性を示唆しているが、現在2件の研究により、固定術の転帰は伝統的な非外科的治療と変わらないことが示されている。もう1つの最近のCochraneレビューは、集中的な集学的治療は、入院患者と外来患者に対する非学際的治療と比較して、機能を改善し、痛みを軽減すると結論づけている。

有害事象リスクの低さ、非侵襲性、低コストなどの点から、第1選択治療が奏功しない腰痛患者に対して、FRPは最善の治療選択肢となっている。集中的FRPを勧める前に固定術を行うことは、費用効果の点においても、「まず害するなかれ(first do no harm)」という原則からも正当化できない。リハビリテーションから利益を得られない患者に対しても手術は提供できるのである。

CBTに基づく集中リハビリテーションは、腰椎固定術と同様の改善をもたらすことを示唆する臨床的根拠は増加しつつある。このことを患者に知らせずに、腰椎症に対して腰椎固定術を勧めることはもはや倫理的とは考えられないであろう。
by c-dunk | 2005-12-08 20:39 | 痛み

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