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社会原性疼痛

筋筋膜は客観的原因にはならない?それともこれは「真」の心因性の話しか?

Medical Tribune
[1998年6月25日 (VOL.31 NO.27) p.12]
Clinical Focus
プライマリケアにおける原因不明の疼痛/有害となる可能性のある診断検査は避ける
〔米ワシントン州シアトル〕 ワシントン大学(シアトル)神経外科および麻酔科のJohn D. Loeser教授は「プライマリケアにおいて,明らかな身体的徴候を伴わない疼痛患者を診断する際は,有害となる可能性のある診断検査や外科的手技を避けるべきである」と主張している。

 同教授は「診断検査を行うとき,医師は患者に対して常に“あなたの体のどこかに症状の原因がある”と言っている。疼痛の客観的原因を追求しているうちに,有害となる可能性のある診断検査を行ったり,“治療による偶発事故”が起きてしまうことがしばしばある」と述べている。

多用すべきでない“心因性”の診断
 Loeser教授によると,プライマリケアで見られる疼痛症例のうち,身体的原因が突き止められるものは一部分にすぎないという。「病因が見つからない症例は非常に多い。そして,この問題に対処しなければならないのは疼痛管理クリニックではなく,プライマリケア医であることが多い」と述べた。
 心因性疼痛に関するセミナーに参加した研究者らは,心因性疼痛の診断は慎重に行うべきであり,明白な客観的病因が見つからないから心因性とするのではなく,心因性であることを積極的に肯定する知見に基づいて診断すべきであると主張した。
 同教授は「疼痛の原因を心因性と診断したり,さらに軽蔑的な言葉を用いるようなとき,医師は医学とは無関係の管理上の問題に引き込まれる。われわれは,疼痛などの症状の訴えを新しい観点から見るべき時期に来ていると思う」と述べた。

社会的ストレスも疼痛の一因に
 同教授は「疼痛に明らかな客観的原因が見つからないとき,プライマリケア医は社会的ストレスを原因の 1 つとして考慮してみるべきである。社会的要因によって引き起こされる神経インパルスは,組織の損傷によって生じる神経インパルスと同様に強力だからである」とし,さらに,「家族,仕事,宗教などの疼痛に関連がありそうな社会的要因について患者に質問すること」をプライマリケア医に勧めている。
 同教授は,心因性疼痛の説明として現在考えられている 2 説を紹介した。その 1 つは,感覚入力の下流の調節がなんらかの原因で変化して,刺激が痛みとして認識されるレベルとパターンで脳に到達するという説。もう 1 つは,なんらかの原因によって知覚処理システムに変調が生じ,小さな刺激に対して異常な反応が生ずるという説である。
 ワシントン大学精神科のMark Sullivan准教授は「ヒトの社会性の生理を認識することが,明らかな病因の見つからない臨床的疼痛の説明におおいに役立つだろう」と示唆。「数件の動物の研究で,痛覚レセプターの発現に社会的要因が関与していることが指摘されている。社会的地位を失った霊長類のオスに明らかなセロトニン効果が見られることが好例である」と指摘した。
 同准教授は,明らかな身体的病因の見つからない疼痛の名称として“社会原性疼痛”と言う用語を提案,「うつ病と疼痛障害もしくは疼痛の重症度との関連は多くの研究で指摘されている」と述べた。

心因性の診断で保険の打ち切りも
 Sullivan准教授は「心因性疼痛は臨床的有用性のない“除外による診断”である」とし,「心因性疼痛との診断を下すことは,患者に“これはあなたの問題であって,私の問題ではない”と告げることである。根本的に心因性疼痛という診断は,疼痛の責任の所在に関する倫理的観念に基づくもので,疼痛の原因の科学的考察に基づくものではない」と述べた。
 同准教授は「心因性疼痛という診断は,患者に身体的障害があることを認めないため,第三者である保険会社がそれを根拠に保険適用を拒否するという事態を招きかねない」と示唆した。
 ワシントン大学リハビリテーション医学のJames Robinson助教授によると,とりわけ懸念されるのは中立的医学検査(IME)で,心因性疼痛との診断が下された場合,障害を有する労働者が支払請求の打ち切りにあう恐れがあることだという。しかし,Robinson助教授自身が,ワシントン労働産業局によって打ち切られた保険支払請求について行った研究によると,心因性疼痛の診断が支払請求の打ち切りを早めるとの仮説は支持されなかった。同局はワシントン州での主要な産業補償保険機関である。
 同助教授は大規模研究の一部として,1996年 1 月の 1 年以上前に開始され,精神科IMEに照会された178件の請求を検討した。その結果,16か月後までに打ち切られた請求は,全体では44%だったのに対して,IMEで心因性疼痛と診断された請求のなかでは40%だった。同助教授は「心因性疼痛の診断は,保険システムの外へ患者を追い出すのではなく,どちらかと言えばその反対の傾向にあった」と述べた。
 同研究のデータによると,精神科IMEを実施した医師が治療を勧めたか否かは,請求打ち切りに影響を及ぼさなかった。しかし,Robinson助教授は「心因性疼痛という診断は,患者に症状の固定化・安定化を宣告し,支払請求の打ち切りを容易にするかに見える,不親切な診断である」と述べた。
by c-dunk | 2006-04-07 15:53 | 痛み

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